『最初だから、もうちょっと長く話していい?


俺が歌を歌う理由って言ったことなかったよな?

プロを目指したきっかけは話したことあるけど。


まぁ、それも含めて、もう一回話させてください。


俺、心の内を言葉にするのが苦手で……

伝えたい本当の気持ちを、面と向かってはもちろん言えないし、こうやって録音でも、照れて怪しいところがある。

だけど、歌だったら、歌うのは昔から好きだったし、どさくさに紛れて……というのは言い方が悪いけど、気負わなくても自然に心の内を出せると思うんだ。
 
だから、歌うことにしたんだ。

結構、ありきたりでしょ。


それで、俺の実の父親が、ジャイアンツの大ファンで、プロの野球選手目指してて、東京ドームでプレーするのが夢だったんだ。

でも、俺は野球はさほど上手くなかった。

じゃあ、俺が東京ドームを目指すにはどうしたらいいんだ、って考えた時に、俺には歌があるじゃないか、って。

歌だったら、俺でも東京ドーム目指せるかもしれないって思ったんだ。


若いなぁ。自分で言ってて、恥ずかしくなってきた』



彼の照れている様子がリアルに想像できた。


右手で前髪を押さえて少し顔を隠す仕草。

それは彼が照れたときにするよくする癖だった。


きっと彼は気づいていなかっただろう。