For You 〜 天使だった君に 最高のお返しを

『はい。恥ずかしいから曲行きます。


あ、そう。これから毎日一曲ずつ優梨花に届けたいと思っています。

基本は、毎日一曲ずつ書き下ろそうと思ってるんだけど、その日の気分でカバーとかするかも。

分かんない。とりあえず、その日優梨花に届けたいと思った曲を歌います。


……では、今日の曲です。聴いてください。

……あっ、タイトルはついてません。』



彼は、アコースティックギターで二、三個コードを鳴らしてから、小さく咳払いをした。


そうして、大きく息を吸い込んだ。

彼の息遣いまでも、しっかりと聴こえた。


もう一度彼の歌が聴ける。

そう思うと私の心はざわついた。

しかも今まで聴いたことのない曲なのだ。


メジャーコードから始まる、まさにアコースティックギターが合うような優しい曲調だった。

初めの一音目が流れた瞬間から、もう大好きな曲だと感じる。


私はほんの数日ぶりに聴く彼のギターに、とてつもない懐かしさを覚えた。

もう10年も毎日のように聴いていたから、少し聴かないだけですごく長い間聴いていなかった気がする。


彼が息を吸う音が聞こえた。

そして彼の声が耳いっぱいに溢れる。


身体中、鳥肌がたった。

懐かしすぎて愛おしすぎて、堪えようと思ったのに目にどんどん涙が溜まってくる。


彼の曲を聴いた時、涙が出てしまうことはしばしばあった。

すると彼は、ニヤリとしたり顔で「いい曲でしょ」とおどけて喜んでいた。


そう。これは曲に感動しただけ。

嗚咽が漏れないなら、しっかり聴けるから涙を流してもオッケー。


自分でゴーサインを出した瞬間に、涙が溢れ出た。

そのまま彼の曲に身を委ねる。

両耳いっぱいの彼の声とギターは、心地が良くて良くてたまらない。



しかし、明らかに引っかかる歌詞があった。
 

あなたが笑うだけで 僕は生きてゆける


サビの初めの歌詞だ。
 
彼がわざとこの歌詞を入れたのかどうか分からなかった。


生きてゆける――歌った当時「生きてゆけた」ということだろうか。

でも、死んだ後に聴かせる歌にしては皮肉が利きすぎている。