彼のライブに何度か行くうちに、一つだけ心に引っかかる詞があることに気付いた。



暗くて寂しくて何も見えなくて

捨てられたごみのように 僕は必要ないと思った



他の歌同様、ストレートな歌詞なことに変わりはないのだが、この詞の部分を歌うときだけ明らかに表情が違っていた。

他の部分は、楽しい曲は楽しげに、切ない曲は切ない表情で、などそれぞれの歌の雰囲気にあった表情をしているのだが、この部分だけ、感情がこもりすぎている気がした。

ここを歌うだけで、彼自身が今にも泣きそうな感じになってしまうのだ。


彼は作詞作曲をする時、あまり実体験は踏まえていないと言っていた。

無いこともないけど、大半は想像して作ってる、想像するの得意だから、と。


しかし、直感的にこの部分は絶対彼自身の何かしらの記憶に触っていると思った。


いかにも敵の少なそうな彼が、必要とされない時期があったのだろうか。

昔、いじめられたりしたのだろうか。



それとも……

もうひとつ思いつく可能性に自分の境遇を重ねる。


彼に聞いてみようか。

自分と同じなら、自分から積極的に話す話題ではないが、尋ねられたらごまかすことなく答えるだろう。



でももし違ったら。


彼を傷つけてしまったらどうしよう。


しかし、なぜか自分の直感が正しいであろう自信は少なからずあった。



散々迷った挙句、私はある日のライブが終わった後の恒例行事で聞いてみることにした。


その頃には、友達と呼べるくらいには仲良くなっていた。

もしそうなら、知っておいた方がいい気がした。