自分の部屋に帰ると、思っていた以上の疲れがどっと押し寄せてきた。運転疲れもあるだろうが、きっとそれだけではない。僕は電気も着けずにそのままベッドに直行し、シャツのボタンを二つ開け、倒れこむ。いろいろ考えることがあるが、今日はもう僕のキャパシティーを超えている。今日はもうこのまま寝てしまおう。そう思って僕は目を瞑った。

 目を瞑れば瞼の裏に送葉が浮かび上がる。今の僕はそうできている。送葉は何かをするわけではない。ただ、僕の瞼に張り付き、僕の方を見ている。ただジッと。僕は送葉に見守られながら眠りに落ちる。



「伝達さん」

 誰かの声がした。あぁ、送葉か。僕は夢を見ているんだな。送葉の後ろ姿を見て自覚する。風景はない。ただ真っ白な空間に送葉が一人、立っている。時々、今みたいに夢だと自覚しながら夢を見ることがある。それは決まって送葉が出てくる夢だ。残念ながら、彼女が出てくる夢のほとんどは、僕にとっていい夢とは言い難い。

「彼女、送葉(仮)はもう一人の私ですよ」

 送葉は僕を見つめ、言う。

「何言ってるんだよ」

 あまり見たい夢ではなさそうだ。早く覚めろ。

「本当です」

「大丈夫、僕の中の送葉は君だけだ」

 覚めろ。覚めろ。

「信じてくれないんですね」

 送葉はふてくされて僕に背を向ける。覚めろ。覚めろ。覚めろ。

「信じるも信じないもないよ」

 これは僕の作り出した夢だから。幻想だから。偶像だから。覚めろ。覚めろ。覚めろ。覚めろ。

「私が作り出したんです」

 送葉は僕に背を向けたままだ。夢というのは時に自分の抑え込んでいる願望を映し出す。わざと気付かないフリをしているのに、理想を突きつける。このままではいけない。早く夢から覚めないと。僕は念じ続ける。覚めろ、覚めろ、覚めろ、覚めろ。

「いくらなんでも君もそんなことできないだろ」

 覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ。

「だって……ほら」

 送葉が振り返ろうとする。

 覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ、覚めろ。
覚めろ!



 カーテンの隙間から朝日の光が差し込み、天井に一本の線を作り出している。僕は額に腕を乗せ、天井に向かって大きく息を吐いた。

「ギリギリ、アウトだ」

 額に乗せた腕でそのまま汗を拭う。

 ギリギリ、アウトだ。