「なんで知っているんですか」
彼女が兄だった人からの手紙の事を言っていることはすぐに気が付いた。だが、あれはこの女子高生と出会う随分前のことだ。そう思ったが、お互いにこの橋、ここらの道をよく使うのだ、私が気付く前から彼女が私に気付いていてもおかしくはない。
「たまたま、あなたが破った紙をこの橋から捨てているのを見かけたんです。誰からのものか、どのような内容だったかはまで知りませんが、あの様子だとそんな感じだろうかと予想しました。その反応を見たところ、あながち的外れでもなさそうですね。自分の感情がない分、他人がどんなことを考えているのかを予想するのが得意なんです。もちろん全てが手に取るようにというわけではありませんし、その後に私がどのような行動をとればいいかまでは分かりかねますが」
「じゃあ、私が今どんな感情か分かりますか?」
「あまり気分はよろしくないのではないかと予想します。覗き見されるのは通常、嫌悪感を生じさせるものだと認識しています。私には嫌悪感というものがよく理解できませんが、嫌に悪と書くくらいですからよくない感情だということくらいは理解しています。ですが、私はあくまで結果的に覗き見したという形になってしまっただけであり、意図的に覗き見したわけではないので非はありません。確かにあの現場を見たために、あなたにこの話を持ち掛けようとしたのは一理ありますが」
確かに人の感情を察することができても、それは自分の感情を動かすものではないために、人を気遣うことが出来ないらしい。本当に面倒くさくて理解しがたい性格をしている。でも、彼女は『感情がない』という性格をどうにかしたい、『感情の取得』をしたいと私に表明した。いや、感情がないという事はこれを性格と言うのも違うかもしれない。でも、見ているだけでは絶対に分からないが、彼女が言うことが全て真実ならば、彼女には彼女なりの苦痛があるのかもしれない。
「くっそ~」
「どうしたんですかいきなり。あまりに的確でぐうの音も出ないのでしょうか?」
彼女は天然煽りの天才なのかもしれない。表情がないというのがその煽りを一層際立たせる。
「嫌なことを思い出させられたので、今からあなたに反撃します」
「……攻撃したつもりはありませんが」
「私が気に食わないんです。今のままではちょっと協力できそうにありません」
「つまり、あなたに反撃をさせれば協力してくださるのでしょうか?」
「少しは可能性が出てくるかもしれません」
「理屈がよくわかりませんが、じゃあ……はい、どうぞ」
彼女は身構えるでもなく、無表情のまま、その掴みどころのない瞳で私をじっと見つめた。
「じゃあ遠慮なく言いますけど、意外とおしゃべりなんですね!」
「……何を言われるかと思えばそんなことですか。否定はしませんよ」
感情のない彼女に言葉で攻撃してもあまり意味はない。それに、彼女に感情が備わっていないこといいことに暴言まがいなことを言うのも良くない。そんなことは知っている。ただ、彼女がいくら天然だとしても言われっぱなしなのは私の気が済まなかった。
「少しはスッキリしましたか?」
「――おかげさまで」
まだ頭の痛みは引いてくれないが、いい加減彼女の言動には慣れなければいけないようである。
「では、今日はこれくらいにしておきましょう。次に会う時までにプリントを読んでいてくれるとありがたいです。それでは」
彼女はそういうと前のように私の横を通り過ぎようとした。
「ちょっと待って」
私は彼女の華奢な腕を掴んだ。まだ重要なことが聞けていない。
「なんでしょう」
「名前」
「名前?」
「教えてくださいよ。まだ聞いてません」
「あぁ、確かにまだ私の名前を言っていませんでしたね。私はあなたの名前を調べたのでもう存じていますが、すみません」
彼女は事務的な謝罪の言葉とお辞儀をする。もちろんそこには感情は伴っていないのだろう。
「私の名前は御状送葉といいます」
「御状送葉……御状さんですね」
「はい。以後、よろしくお願いします。それでは」
御状送葉。彼女はそう名乗るともう一度小さく事務的なお辞儀をし、橋から今度こそ立ち去った。
彼女が兄だった人からの手紙の事を言っていることはすぐに気が付いた。だが、あれはこの女子高生と出会う随分前のことだ。そう思ったが、お互いにこの橋、ここらの道をよく使うのだ、私が気付く前から彼女が私に気付いていてもおかしくはない。
「たまたま、あなたが破った紙をこの橋から捨てているのを見かけたんです。誰からのものか、どのような内容だったかはまで知りませんが、あの様子だとそんな感じだろうかと予想しました。その反応を見たところ、あながち的外れでもなさそうですね。自分の感情がない分、他人がどんなことを考えているのかを予想するのが得意なんです。もちろん全てが手に取るようにというわけではありませんし、その後に私がどのような行動をとればいいかまでは分かりかねますが」
「じゃあ、私が今どんな感情か分かりますか?」
「あまり気分はよろしくないのではないかと予想します。覗き見されるのは通常、嫌悪感を生じさせるものだと認識しています。私には嫌悪感というものがよく理解できませんが、嫌に悪と書くくらいですからよくない感情だということくらいは理解しています。ですが、私はあくまで結果的に覗き見したという形になってしまっただけであり、意図的に覗き見したわけではないので非はありません。確かにあの現場を見たために、あなたにこの話を持ち掛けようとしたのは一理ありますが」
確かに人の感情を察することができても、それは自分の感情を動かすものではないために、人を気遣うことが出来ないらしい。本当に面倒くさくて理解しがたい性格をしている。でも、彼女は『感情がない』という性格をどうにかしたい、『感情の取得』をしたいと私に表明した。いや、感情がないという事はこれを性格と言うのも違うかもしれない。でも、見ているだけでは絶対に分からないが、彼女が言うことが全て真実ならば、彼女には彼女なりの苦痛があるのかもしれない。
「くっそ~」
「どうしたんですかいきなり。あまりに的確でぐうの音も出ないのでしょうか?」
彼女は天然煽りの天才なのかもしれない。表情がないというのがその煽りを一層際立たせる。
「嫌なことを思い出させられたので、今からあなたに反撃します」
「……攻撃したつもりはありませんが」
「私が気に食わないんです。今のままではちょっと協力できそうにありません」
「つまり、あなたに反撃をさせれば協力してくださるのでしょうか?」
「少しは可能性が出てくるかもしれません」
「理屈がよくわかりませんが、じゃあ……はい、どうぞ」
彼女は身構えるでもなく、無表情のまま、その掴みどころのない瞳で私をじっと見つめた。
「じゃあ遠慮なく言いますけど、意外とおしゃべりなんですね!」
「……何を言われるかと思えばそんなことですか。否定はしませんよ」
感情のない彼女に言葉で攻撃してもあまり意味はない。それに、彼女に感情が備わっていないこといいことに暴言まがいなことを言うのも良くない。そんなことは知っている。ただ、彼女がいくら天然だとしても言われっぱなしなのは私の気が済まなかった。
「少しはスッキリしましたか?」
「――おかげさまで」
まだ頭の痛みは引いてくれないが、いい加減彼女の言動には慣れなければいけないようである。
「では、今日はこれくらいにしておきましょう。次に会う時までにプリントを読んでいてくれるとありがたいです。それでは」
彼女はそういうと前のように私の横を通り過ぎようとした。
「ちょっと待って」
私は彼女の華奢な腕を掴んだ。まだ重要なことが聞けていない。
「なんでしょう」
「名前」
「名前?」
「教えてくださいよ。まだ聞いてません」
「あぁ、確かにまだ私の名前を言っていませんでしたね。私はあなたの名前を調べたのでもう存じていますが、すみません」
彼女は事務的な謝罪の言葉とお辞儀をする。もちろんそこには感情は伴っていないのだろう。
「私の名前は御状送葉といいます」
「御状送葉……御状さんですね」
「はい。以後、よろしくお願いします。それでは」
御状送葉。彼女はそう名乗るともう一度小さく事務的なお辞儀をし、橋から今度こそ立ち去った。
