圭汰の話が、携帯電話の音で遮られる。

どうやらそれは圭汰の携帯電話の音だったようで、圭汰は話を止めて、ポケットに入っていた携帯電話を操作し出す。

手の動きから、メールの返信をしていると推察し、私はそれを、隣から見つめていた。
もちろん、画面に何が映っているかまでは見ていない。


しばらくすると、圭汰は携帯電話を再びポケットに入れ、私の顔を見る。

「奥さん?」

不意に出た質問だった。
圭汰は少しも動揺した顔を見せず、ごく自然に、うん、と頷く。

「・・・なんて?」
「いつ頃帰ってくるのか?って。最近、煩いんだよな」
「えっ、じゃあ、もう帰った方がいい?」

そんなに帰ってこいと催促されているのなら、話を止めて解散した方が良いのではないか、と思った。

しかし、圭汰は首を左右に振って、

「いや、いいよ。気にしないで。・・・で、どこまで話したっけ?」

と、再び会話を始めようとする。

それが、私はなんだか切なかった。


前付き合っていた頃なら、こうやって奥さんのことを気にすることはなかったし、時間を心配する必要はなかった。