偽物でしょう、と彼女は呟いた。


とっくの昔に温度を無くした瞳には、やっぱり温かさも冷たさも宿っていなかった。はあ、と白い息が彼女の唇からこぼれ、すぐに消えた。暖房を入れようか、と尋ねても、彼女は首を横に振るだけ。

凍りつくような寒さの部屋で、僕と彼女は身を寄せ合い、ひとつの毛布にくるまった。

相変わらず、彼女の息は白いまま。微弱な震えも、腕を通して伝わってくる。それなのに、彼女はかたくなに動こうとしない。


しばらくして、やわらかな寝息が聞こえてきた。僕は頬に残った涙のあとを見つけて、そっと指でなぞった。


錆びちゃったよ、君の浅葱色の髪。指ですくってもすぐに流れて、輝いて、君も気に入っていたのに。



「ごめんね……」


懺悔の言葉は届くはずもなく、僕は顔を伏せる。

君は覚えているのだろうか。
僕と出会わなければ、幸せになれたことを。


「分かってるよね」


そうじゃなければ、「偽物」なんて口にしないはずだから。




錆びきった浅葱はもう戻らない。それでも君が偽物のそばにいてくれることを甘受して、寄り添っていけたらどんなに幸せだろう。