キーンコーンカーンコーン

ノートをとる、カリカリ...という音しか聴こえないこの雰囲気をチャイムが破った。

「もう時間か・・・。今日の授業はここまで!」

この瞬間を待っていた・・・。
私は思わず にやっとした。もちろん、教科書の影で教卓の位置からは見えない。そこ辺りには抜かりないつもりだ。

先生の一言で、みんな一斉に立ち上がる。
気が緩み、喋りだす子もちらほら出てきた。
【礼儀正しく】をモットーに掲げる先生は、軽く眉をしかめる。

それにいち早く気がついた、我らが学級委員 霧。素早く号令をかける。
「気をつけ 礼!」
『ありがとうございましたー!』



「茜〜やっと今日の授業終わったよ〜。長かった!」

授業が終わり、ペンや教科書をまとめていると 気だるそうな声が頭上から降ってきた。

「波音(はのん)、お疲れ様」

私は上を見上げ、腰を反らせた。
すると後ろから、10歳にしては指の長い 日焼けした手がのびてきて ほっぺをつままれた。

「わぁ!何回触っても、本当ぷにぷにだな...!」

ほぅ、という吐息と共に波音がリズミカルに歌う。
「お肌ぷるるんっ♪もっちもち!
極上の肌触りを、あなたの毎日に!」

このリズム、どこかで聴いたな・・・。
私が、割とどうでもいい事に頭を悩ませていると

「CMのだよ〜化粧水の。ほら、美叶ちゃんの!」

あぁーそう言えば。
納得した私は、軽く頷いた。

話しながらも、片付けは続行していたが ようやく直し終わった。
ふと目線を感じ、視線を上げた。

「・・・何?」

そのには、波音のドヤ顔が。

もし今、
(ドヤ顔って何?分かんなーい!)
という人がいたなら、是非とも波音の今の表情を見せて差し上げたい。
これが本当のドヤ顔だろう。

「うち、茜が何考えてたのか当てたっしょ!以心伝心!」


どうやら、【以心伝心】という言葉か波音の中で流行っているらしい。
最近、繰り返しこんな事を言っている。

「おい、席につけー。HRするぞ」

先生がそう言いながら入ってくると、お喋りを楽しんでいたみんなは、クモの巣を散らしたように 急いで席についた。






「...と、以上!」
先生がそう言うと、私達は一斉に立ち上がった。
学級委員が号令をかけようとした時、先生は慌てて口を挟んだ。

「補足!今日、漢字テスト60点以下は放課後居残りだ。不合格者は、まぁ自分で分かってはいるだろうが黒板に掲示してある。サボらないように!」

私は話もそこそこに、ちらりと黒板の隅に貼ってある
【居残りメンバー表】を見た。
これでも目はいい。

・・・波音、ドンマイ。

「あともう一つ!」
張り上げた声が響く。
何だ、まだあるの。まとめて言ってよ。

「PTAから、レインコートが届いた。最近多い、交通事故防止の為だ。きちんと着用するように。ちなみに、フリーサイズだ。」
これだ、とそのレインコートを広げて見せてくれた。

ふぅん、赤か...デザインも なかなかだな。
いつも学校配布のは、ダサかったしな・・・。
路線変更?

なんて事を、ペン回しをしながら考えていた。
その時、

「はーいはーい!先生、質問で〜す!」
無駄に明るく抜けた声が聞こえた。
波音だ。みんな一斉に振り返る。

「はい、加瀬川 波音さん。何ですか?
あと、はいは1回ね。」

ガタッ。それにしても勢いよく立ち上がった。隣の席の子の顔に、ツインテが引っかかった。

「何で、赤なんですか?うちら、前にも貰った事あるけど ずっと黄色でした!
それに、何かそれ雑貨屋さんにありそー。」

波音の質問に、
そうだよねー。俺もそれ思ってた!
と共感の声が沸く。
すぐに、あーでもないこーでもない と憶測が飛び交い ざわつき始めた。

パンパン
手を叩く音が鳴る。
「はい静かにー。えー、実はですね」

先生は、気まずそうに顔を背けた。
「実は・・・発注ミスです。」

発注ミス

「雑貨屋にこれまた大量の発注ミスがあったらしくて、安く買えたんで それで。」

安く買えたんで、それで

「・・・かわいいですよ、皆さん!まるで・・・





























赤ずきんちゃんのようで。」