「おはよう。夏子のことをよろしく頼むよ。」


夏子の後ろから、お父様が顔を出した。


「おはようございます。こちらこそ無理を言ってしまったようで、すみません。」


「いいのよ。夏子がこんなに真剣に頼み事なんて、今までなかったもの。こちらこそご迷惑かと思うけど、宜しくお願いしますね。」


夏子のお母様からも頼まれてしまった。
夏子はいったい何を理由に行くって頼んだんだ? 明らかに重い。


「もちろんです。夏子のことは、責任を持ってお預かりします。」


僕は、慎重に答えた。


「先輩! 後ろ開けてください! 荷物荷物! 」


話の途中で夏子が騒ぎ始めた。


「僕が入れるよ。夏子は座っていいぞ。」


荷物を受け取り、後部座席のドアを開け夏子を座らせた。


「少しの間ですが、夏子をお預かりします。」


僕は、丁寧に頭を下げた。


「よろしく頼むよ。」


夏子のご両親に見送られ、僕達は出発した。


「夏子? いったい何て言ったんだ? 真剣に頼み事なんて・・・・・・とお母様は言ってたが。」


「うーん・・・・・・なんて言うんですかね? 先輩達の最後の夏休みに、咲夜さんの実家で勉強を教えてもらえるの! こんな事って、後にも先にも今しかないの! 私、ちゃんと大学合格したいの!! だから行かせて! みたいな? 」


あははは。と笑いながら言っている。


「やれやれ。勉強会ね。ちゃんと教科書は持ってきたのかい? 理由はどうあれ、受験生を連れて歩くんだ。今回の事で受験に失敗されてもな。」


「ふふふ。そうね。受験勉強ができればいいけど。」


咲夜は、勉強を教える気はないようだな。
クスクス笑いながら、夏子の相手をしている。


「やれやれ。・・・さあ、駅に浩介を拾いに行こう。」


僕は、駅に向かってハンドルを切った。