『オニ』はまだ動けない。
咲夜が止めているようだ。


僕は、鞘から刀を抜いた。
刀身が光っている。
僕に反応しているのか? 鞘から抜けたという事は、僕は棟隆の血縁ってことか。
光る刀身に文字が浮かび上がる。


「汝、迷うことなかれ その力 示せ

どういう事だ? これだけで封印しろって事か? 」


刀身に浮かんだ文字はこれだけだ。
他に浮かんでくる気配もない。


「先輩! ヤバイっス!! 」


浩介の声に我に返る。
咲夜を見ると、完全に影に包まれている。
まだ、咲夜の力が働いているのか動かないが、尻尾のような物が蠢いている。
咲夜が、どこまで持つかわからない以上、ここを離れるのが先決だ。


「夏子、大丈夫か? 白虎の外から回って東側へ行こう。広さがあれば逃げやすいだろう。」


「わかりました! 走りながら解読ですか? 私も、ちゃんと見たいです! 」


体制を整え、僕達は走り出した。


「どう思う? 迷うなって言うのはわかる。だが、力を示せって、何をするんだ? 」


走りながら夏子に刀身を見せた。


「他に書いてないんですかね? これだけじゃないと思うんですけど。後ろ側は? 」


夏子に言われ、刀をひっくり返したが、何もなかった。


「ないですね。ここって何処なんだろう? 場所ですかね? それとも、この刀に対してですかね? 」


ここまで難解とは思わなかった。
何を意味しているんだ?


「文章的には、前にある感じですよね? もしかして、鞘とか? 祠には何もなかったです。取りに行った場所にも何もなかったんです。先輩が刀を持ってから光ったから、先輩が触らないと駄目なんじゃないですか? 」


僕が触れると文字が出るのか?
いや、それより鞘は・・・。


「悪い。鞘は置いてきた。西側の扉の前だ。」


「戻ります? 」


夏子に言われ、戻るか戻らないか考えていたが。


「今は無理じゃないっスか?! あれマジでヤバイっスよ! 」


浩介が見ていたのは、白虎と玄武の間にある通路の奥。咲夜のいる広間だ。
僕達も、確認しに行くと。


「ちょっとちょっと! 何あれ!! 嘘でしょ? 戻るとか進むとか出来るんですか?! 」


『オニ』になった咲夜は、広間の中央から動いていない。
だが、蠢いていた尻尾が広がり、動き始めた。


「やっかいだな。本体は動かず、影で攻撃してくるのか。封印は本体に何かをするんだろ? 近づくのも容易じゃないな。」