闇の鬼~影を纏いし者~

「覚えていてくれたかい? 懐かしいの。また、べっぴんさんになったね。千影さんによく似てる。しかし、千影さんに言われてって。千影さん、何かあったのかい?」


記録のあの日、千影さんと、同じ場所にいた人だ。
咲夜に面影があるんだろう。
懐かしを隠せないようだ。


「単刀直入にお話します。『オニ』の夢を見ました。知っていることを教えていただけませんか? オバァ様には、自分達で真実を探せと言われました。」


「?!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

そうか。見たのか。千影さんじゃぁなかったが、そうか。咲夜ちゃんが。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


次郎さんは、驚きを隠せずにいたが、黙ってしまった。
やはり、辛いものなのだろうか。


沈黙が続いたが、ため息と同時に次郎さんは、口を開いた。


「千影さんから、どこまで聞いたんだい? いや、中へ入ろう。」


そう言って、次郎さんは、家の中へ招いてくれた。


「そうか。

・・・・・・・・・・・・。

そうか・・・・・・。」


呪文のように呟いている。


「さあ、座りなさい。改めて、自己紹介をしようか。九栗次郎だ。千影さんとは、長い付き合いだよ。」


僕達も、それぞれ自己紹介をし、ここまでの経緯を話した。


「千影さんが、そんな記録を残してたのかい。それじゃあ、わしの知っている九栗と鏑木の話をしようか。」


次郎さんは、少し間を置いて呼吸を整えてから話し始めた。


「わしの継いでいる九栗は、刀を作った一族とされている。唯一生まれた巫女の能力を持った男子の血族だよ。
そして、鏑木だが・・・。
ここは絶えてしまった。守り人として祠を護ることを約束した一族なんだがね。

ここに来る途中に少し壊れた家を見たかい? そこが鏑木家だよ。託されてね。わしが管理してるんだ。
嫁さんが、体が弱くてね。子供を授かる前に他界してしまって、鏑木も後妻をとらなかったんだよ。だから、今残っているのは、九栗と朱桜だけなんだ。
咲夜ちゃん、酷な頼みと思うんだ。これで、終わりにしてくれないか? やはり苦しい。代々苦しみを背負いながら生きるのは辛いことだ。」


そう言って、次郎さんは、頭を下げた。


「わかっています。そのつもりで来ました。私、妹がいるんです。私が失敗したら、次は妹。その時に、私は側にいないでしょう。それだけはしないと。」


「珍しい。姉妹なのか・・・。


あんたら、覚悟はあるかい? 『オニ』が出てからはどうやったらいいのか、わしも知らん事だ。だが、それまでの事は教えられる。
まずは、鏑木の家に行きなさい。裏に山があってね、祠はそこにある。祠の中に社があるから、刀を持つものではなく、運ぶものが社を開けるんだ。」


なんだって?
運ぶ者? そんな役割があるのか?


「運ぶ者って? 刀を持つ人が開くんじゃないんですか? 」


夏子も、疑問に思ったようだ。


「ん? そうか。千影さんは知らん事か。知らんでいいまま過ごして欲しかったんだろう。
実はな、『オニ』の封印には、何人か役割を持った者が必要なんだよ。

刀を持ち、封印する者。
『オニ』を封印するのに宿す者。
刀の運び手。
運び手を守る者。

最低でも四人必要なんだよ。」


驚いた。
夏子も、浩介もその中に入っているのか。
千影さんは、知っていたのだろう。もう一人は? と、聞かれたはずだ。