織物の作業場から奥に行くと、木材が置いてある場所に出た。


「この奥ですよ! 先輩! 早く早く! 」


足早に夏子が奥に向かった。

奥にある建物の中に入ると、組み上げ途中の櫓があった。


「浩介! どこ! 帰るよ! 」


夏子が騒いでいる。
しかし、大きな櫓だ。
これを人が作っているのか。


「夏子?! なんだよ、もう帰るって? 」


櫓の裏から汗だくになった浩介が顔を出した。


「浩介、汗だくだな。手伝いをしてたのか? 」


「おっ、先輩達も来たんスね。これ凄くないっすか? ヤバいっすよ。」


「おう! お友達かい? 悪いね。手伝ってもらって。」


櫓の上から声が聞こえた。
見上げると、精悍な男性が顔を出した。


「すみません! 御迷惑じゃなかったでしょうか? 」


僕は、聞こえるであろうレベルの声で返事をした。


「大丈夫だよ! 助かった! さすがに1人じゃキツくてな。ちょっと待ってろ! 今降りるから。」


そう言って櫓を器用に降りてきた。
男性は、冴木 一真と名乗った。


「いやー、すまんね。仲間が風邪ひいちまって1人でやってたとこなんだよ。さっきここに来て、手伝いたいって言うから、甘えちまった。なんか用事があるんだろ? 顔洗ってこいよ。」


「いや、オレ最後までやりたいっす。先輩、ダメっすかね? 夏子守るって言って付いてきたのに申し訳ないっす。」


浩介が頭を下げている。
それほどの魅力なのか?
本当に興味が湧く。


「いいんじゃない? 浩介君がこんなに夢中になれるものが夏子以外にあるなんていい事よ。」


「え?! 咲夜さん本気で言ってます?! 」


夏子も、咲夜の言葉に驚いたようだ。
僕も驚いた。
確かに、今、浩介が必要かと言われれば、そうではないだろうが、この先何があるかわからないぞ?


「おいおい、いいのかい? こっちは助かるが、そっちは困らないのかい? 」


冴木さんが、逆に聞いてきた。
僕は、少し考えてから答えた。


「今のところ、すぐに困ることはないんですが、浩介はいいのか? ただ、ここに残るなら、泊まるところを探さないとな。」


現状、浩介がオバァ様に会っても話がわからないだろう。
すぐに危険はないと思うが、ここで浩介の思いをやり遂げることも重要かもしれない。
だか、ここに泊まることは想定外だ。


「ん? それなら、うちに来ればいい! 1人増えても問題はないからな! だけど、本当にいいのか? すごく助かるぜ! 若いのが居なくてな! 弟子にしたいくらいだよ! 」


ははは! と笑いながら浩介の肩を叩いている。


「先輩、本当にいいんスか? 」


浩介は、まだ半信半疑のようだ。


「この櫓は、どのくらいで完成するものなんですか? 私達、祖母の家に世話になる予定なんですが、滞在が、2週間くらいかと。その間は、浩介君をお任せしてもいいんですが。」


咲夜は、完成時間が気になったようだ。
2週間か。
ここで調べられることは調べたい。
足りるのか?


「うーん。そうだな。2週間あればいいとこまでいくだろう。助かるよ。2週間こいつ借りるぜ! 頼むな! 」


「はい! 先輩、ありがとうございます! 」


直立不動で頭を下げる。
学校で見せてやりたい姿だな。


「決まりだな。
浩介、荷物だけ車に取りに来れるか? 2週間の予定ですが、浩介の事、宜しくお願いします。」


「おう! まかせとけ! いいもの作ってみせてやろう! 」


僕達は、浩介の事を頼み、車に向かった。