「せーんぱいっ!! 」




小さな声のつもりで呼んでいるが、かなり大きいぞ……。
その声が、僕に向けられていることは間違いないだろう。



嫌な予感がするな、と思いながら振り向く。



そこには、満面の笑みを浮かべた夏子がいた。


ハーフパンツに大きめのTシャツ、緩いウェーブのかかった髪。
可愛らしい女子高生だ。



今は夏休み。



僕は、調べ物をするために図書館にきていた。



待ち合わせ場所としても使っていたが、まさか、図書館に夏子が来るとは思ってなかった。



「おはようございます! 図書館で調べ物してる、って聞いたから来ちゃいました。」



えへへ、と笑いながら夏子は、僕の前に座った。

途中で浩介に会ったんだな。
ここに来る途中で、会ったのは浩介だけだ。



図書館に調べ物、なんて話をしない方がよかったな。




「で? そんなに嬉しそうにして、何かいい事でもあったのかい? 」



とりあえず、僕は資料を閉じて聞いてみた。


「夏休みに、先輩に会えるって奇跡じゃないですか? しかも私服だし! ……って、相変わらず恰好いいですよねぇ。」



夏子は、机に頬杖をついて言っている。



「なんだ、そんな事でテンション高いのか? 」



聞かれて、夏子は不思議そうな顔を一瞬だけみせた。



「あっ! オニ? でしたっけ? 調べてるんですよね! なんで私に言ってくれないんですか? そういう事なら得意なのに!」



そう言って、僕の前から資料を引き寄せ読み始めた。



「おいおい、手伝ってくれとは言ってないぞ? 」



夏子は、僕の声が聞こえないのか、本から目を離さない。


やはり浩介に聞いたんだな。


このままだと、巻き込むことになる。
それだけはしない。と決めていたはずなのに。


夏子を危険な目に合わせたくはない。
なんとか話を逸らさないと面倒だな。



「そういえば夏子、浩介と喧嘩でもしたのか? ここに来る前に会ったけど、あいつ、拗ねてたぞ。」


「あんなやついいんです! 私の事バカにして! それより、先輩? どんな話なんですか? やっぱり怪談っぽい感じですか? 」



駄目だな。話を逸らすことが難しい。