「一生に一度で十分。そのかわり、ファーストキスはムードも何もなかったから、プロポーズには夢を持つわ。世界で一番ロマンチックなプロポーズがいいな」
「自分でそれ、ハードルあげてないか?」
「うるさい。ほら、秘書室に到着するよ。その前髪整えて」
良く見れば、ネクタイが若干曲がってるような気がして、手を伸ばして整える。
前までは何も考えずに伸ばしていた手。
ネクタイに手をかけたら、巧が小さく息を飲むのが分かった。
少しずつ、何かが動き始めた。
やっと少しずつ動き始めた。
そんな気がする。
悔しいけれどあの森元さんの真っ直ぐさにも、巧のことを見る熱視線にも嫉妬したのは確かだ。
私は婚約者と思って生きて来たから、森元さんに対する気持ちはプライドからなのか、恋愛からの嫉妬なのか。
明確に言葉にできれば、この歪な関係から進める。
私の気持ちを、自分でも気づいていない気持ちを整理しなければ。



