「そんな、つもりはない、です」
「じゃあいいわね。宜しく」
段々語尾が小さく鳴っていくのを見逃さず、畳みかけるように言う。
そしてそのまま、巧に視線を促して庶務課を出て行く。
「……栄子おばあさまの所で会ってたんだ」
「俺は記憶にないがな、そうらしい」
そうらしい、って。
今、お前の話をしているっていうのに!
と汚く罵ってやりたくなった。
「昨日は、悪かったな」
ついでみたいにそんな風に謝らないでほしい。
「昨日、巧に悪いところがあった?」
肩で風を切って歩く。
誰もが、巧や巧の隣を歩く私に振りかえる。
お互いに、目立つ存在だと分かっていた。だから見られてなれているし、別にそれは問題でも無かったはずだ。
気にしない。
エレベーターに乗り込むまでに何人に好奇な目で見られようが、私達には関係ない。
「悪いと思ってはいない」
エレベーターのドアが閉まった瞬間、本音を零す巧を睨みつける。
「ムードも糞もなく人のファーストキスを奪っておいて悪いと思ってない? へえ、そうなんだ」



