「昨日の巧よりは怖くない」
ふふんとわざと挑発して笑う。
すると、昨日何があったか分からない森元さんは私と巧を交互に見て慌てている様子だった。
昨日、キスをした。
そしてそのまま、逃げられた。
捕まえられなかったのは、こんなに真剣な思いで巧を見ていなかったからだろう。
でも巧からは、仕事中だからか昨日のことについてどう出てくるのか表情が読みとれない。反省でもしているかと思ったのに、いつものふてぶてしい好青年の姿を身に纏っている。
「志野、もう少し優しくしてやれ。視線だけでも怖いぞ」
「この取引が終わったら、私が彼女の指導を代わるから」
「分かってる」
「え、英田秘書が!?」
「私は巧みたいに優しくないから」
にこっと微笑むと、森元さんはざあっと青ざめる。
分かりやすく、水の中に絵の具でも垂らしたかのように、しみ込んでいく感じで顔色が悪くなっていく。
「もっと巧さんにご指導して頂きたかったし、成果をお見せしたかったから残念です」
「それって私が嫌ってこと?」



