「キースと? キースとはダーツをちょっと勝負して帰ってきた。キースの知り合いのお店で個室のダーツが出来るところがあってさ」

トマトの缶詰と玉ねぎ、ひき肉と材料が出てきたのでミートスパゲッティに決まった。あとはワインを飲むであろう巧に、チーズの盛り合わせを……そう考えて振り返ると、巧は不機嫌そうに私を睨んでいる。

「……そんなに睨んでもまだご飯できないよ」
「外国人が経営する個室の遊び場、ねえ。しかも知り合いが経営してるってことは融通も効きそうだ」
「何、突然?」
「お前、危機管理が足りねえんじゃねえか」

不意に、巧の柔らかい言葉使いが荒々しく乱れた。
キースを知らない巧は、警戒している。
いや、取引先だからピリピリしてるのかな。

「そんなんじゃないって。キースは紳士的だし、良い人だよ。話していて頭の回転が速いから、私のために色々アドバイスくれたしね」

バターを取り出し、フライパンの上にナイフで落とす。
ゆらゆらと溶けていくフライパンの横にまな板を置いて、玉ねぎを切ろうと包丁に手を伸ばした。

でも、私の伸ばされた手は、巧の手に掴まる。