顔を洗い化粧水を付けながら部屋へ戻ると、頭から布団をかぶった巧は微動だにしていない。
さっきと同じ恰好のままだ。

「下に巧の分の食事も並べておいたよ。食器はシンクに置いておいてね。今日の予定は?」

「……あー」

布団を払うと、無造作に揺れている前髪を掻きあげた。

「今日、ばあさんの紹介で新入社員が来るらしい」

「え、栄子おばあさまの?」

足を悪くされてから、老人ホームに入られた巧のおばあさま。
旧華族出身で奥ゆかしく慎ましく、上品でまだまだ美しい。

老人ホームと言っても一人ずつコンシェルジュがつき、大きな庭付きの別荘みたいな家が敷地内にいくつもある形で、実質は一人暮らしみたいなものだった。

「先週私も行ったけど、そんな事言ってなかったのに」
「急だからじゃないか? ばあさんが何か発言するなんて珍しいから親父なんて張り切ってる」
「へえ。どんな人なのかな」