「うわ、すげえっす。これ、薔薇?」
「ああ。中央のテーブルに置かせてもらうな」
立花さんと竜崎は一瞬ぽかんとしたけれど、私の胸元の薔薇を見て、にやりと笑った。
「で、さっき渡した書類も確認して、ハンコ押しとけよ」
「はいはい」
一人だけ、仕事モードに戻りやがって、と睨みつけつつ、白い封筒の中の書類を見て固まった。
「これ」
巧の名前と印鑑が押され、証人欄に栄子おばあさまの名前と実印が押してあった。
「婚姻届すか? うわ、俺初めて見る」
「ちょっと! 仕事の書類かもしれないのに上から覗かないで!」
慌てて封筒に閉まったけれど、巧は悪戯が成功した子どものように、ケタケタと笑っていた。
人を振り回して、面白がってる。
「社長に見せてくる」
「うわ、先にお前名前書けよ」
「副社長にも見せてこよう」
「志野、待て」
笑いながらも私の腕を掴む巧を見て、竜崎と立花さんが真っ赤になりながら自分のパソコンに顔を埋める。
朝早く起きて、薔薇の花束を注文して栄子おばあさまにサイン貰って通勤してきてきたくせに、涼しい顔で笑っている巧に、悔しいけれど怒鳴りつけられなかった。
「すぐ書くから、一緒に行くよ」
「ああ。隣で見ててやるよ」
楽しそうな巧を見て、悔しいながらも嫌ではない自分に腹が立つ。
けれど今回は完全に完敗だった。
巧の視線に緊張しつつも、私は自分の名前と実印を押したのだった。



