「俺が持つから、志野はその胸の薔薇だけ持って」
その途端、きゃーっと女子社員が騒ぐ。
巧は998本の薔薇の花束を肩に担ぐと、皆に手を振りながら歩き出す。
「信じられない……。花束を肩に担ぐ人なんて初めて見た……」
実際に999本の薔薇なんて貰っても、きっと漫画みたいにロマンチックにはいかない。実際は持つのに肩に担ぐんだから。
理想と現実のギャップに戸惑いつつも、それでも私の胸は幸せでときめいていた。
森元さんたちが騒ぐのさえ気にならないほど、緊張で足元から崩れないように歩くのがやっと。
突き刺さる視線の中、ただ真っ直ぐエレベーターに向かって歩く。
そしてエレベーターまで隣で寄り添い、乗りこんだ瞬間に抱きついた。
パラパラと花びらが地面に落ちる中、巧も片手で抱きしめてくれた。
「恥ずかしいじゃない。馬鹿」
「998本かき集めるのに苦労したんだから、ご褒美ぐらいくれてもいいんじゃねえの?」
苦労したとか、裏側を見せちゃう当たり、巧は王子様にはなれやしないなと苦笑する。
「今は仕事中だから、……あとでね」
花びらがめのまえをひらりと落ちる。
くすぐったいその感触に、恥ずかしくて居たたまれない状況に、苛まれつつも、薔薇の花束のように甘く心が染まっていった。



