受付から見えるエレベーターを睨みながら巧を待つ。
仕事に戻れと怒鳴ってるのに、まだ通勤時間だからと帰らない野次馬がちらほら居る中、エレベーターが開いた。
中からは既に笑いを堪えてお腹を押さえている巧が居た。
手には、一輪の薔薇を持って。
「高永室長!」
「巧で良いよ」
蕩けんばかりに笑う巧に、女子社員がざわつく。
「998本しかないんだけど」
「そう。持てない量の薔薇の花束を前に、きっと俺を呼んでくれるだろうなって思って」
「馬鹿」
巧が差し出した薔薇を、視線が多くて一瞬恥ずかしさから手を出すのが遅れた。
すると、巧はスーツの胸ポケットに入れてくれると、微笑んだ。
「じゃあ、結婚しようか」
社員が見ている、出勤前のほんの数分。
たったそれだけなのに、一瞬で幸せなお姫様になった錯覚に陥った。
「じゃ、じゃあって何」
「返事は?」
意地悪な微笑みの中、巧が私に囁く。
「返事は?」
もう一度。
「受け取ったでしょ、これ。……嫌なわけないでしょ」
「だと思った」
抱きつきたい衝動を抑えて、精一杯薔薇の花束を持つ。
すると、さっき巧からした新緑に強い匂いに、緊張していた足が崩れそうになる。



