出勤した秘書室には、今日は真っ赤なバラの花が一輪、飾られていた。
「今日はいつもと雰囲気を変えてみたの?」
「いえ。今日は私が出勤したらもう誰かが変えられていました」
「……へえ」
森元さんの仕業かと一瞬だけ思ったけれど、この薔薇には見覚えがあった。
栄子おばあさまの育てている品種と同じ薔薇だったから。
「綺麗だね」
「そうですね」
たった一輪の存在感に思わずため息を零してしまう。
「おはようございまーす。あれ。高永室長がいない」
竜崎がきょろきょろと見渡しながら入ってくる。勿論、薔薇の花なんて見向きもしない。雰囲気を読んで欲しい。
「何で睨むんですか。それより、明後日、タウンゼント氏が帰国されるらしいのでお見送りのスケジュール開けといてって社長が言ってましたよ。お二人と副社長に」
私と巧の席を指差したのち、パソコンを立ち上げる。
「そこはスケジュール開けといたはず。空港まで送る予定だったはず」
「大変っすよね。でもその日は社長抜けられないしね」
薔薇の事には一言も触れずにさっさと仕事に切り替えられ、私達もパソコンを立ち上げた。
今日は目が回るほどの忙しさも無かったが、秘書室に入ってきた巧に思わず眉を顰めた。



