その一瞬で、栄子おばあさまの言葉や、森元さんの自由奔放さを思いだして、カラカラに乾いた声を絞り出す。

「仕事は楽しいから、……嫌じゃない」

「……」

「でも離れるのは、本当は嫌、かも」

握っていた手を強く握り返す。
すると、巧は持っていた鞄を放り投げて繋いでいない方の手で引き寄せ、抱きしめてくれた。

「俺もだ」
短く零れる本音が心地よい。
「俺ももう、ぐちゃぐちゃ周りが言いだす前に言う。離れたくねえ」
落ちた本音は、星空に吸い込まれチカチカと光り出した。

「一緒に行こう」
「それって」
「親父……副社長じゃなくて俺が行けるように説得してみる」

絡めた指先を離して、お互いの背中に手を回す。
静かで力強い巧の声は、私の隠していた不安を全部受け止めてくれた。

飲む込もうとしていた小さな不安を、巧は全部気付いてくれていた。
やはり、巧には敵いそうにない。

「一緒にいこう、オーストアリア」