この年で手を繋ぐとは思わなくて思わずうろたえてしまう。
「いや、焦り過ぎだし」
「て、手なんか繋いだの何時ぶりよ」
「さあ。小学生の時? いや、幼稚園?」
二人して首を傾げるが、思いだせなくて吹きだした。
「繋いだことが無いのかもしれないから、繋いどこうか」
「しょうがないね」
我ながら可愛くない言い方だったけれど、巧は嬉しそうだった。
今日、あのバーにいた同じ会社の人たちの中で、私達がキスや手を繋ぐのさえ初心者だと気付く人たちは居るのだろうか。

こんなに器用なふりをした不器用な私達を。

「家に着く前に聞いておくけど、正直に言えよ」
「何を?」

「仕事とか、自分が我儘言えば誰かが困るとか、ぐちゃぐちゃ考えなくて良いから本音だけ」
「……うん」
「オーストラリア行きは、嫌じゃないのか?」

「――っ」

いい加減な月の下、私の隠していた本音を照らしだそうと巧が顔を覗きこむ。