「仕事中は仕事だから勿論考えてるよ。でもそれが俺の足かせになるなら、邪魔なだけだよ」
優しい口調だけど、乾いた声が怖い。目線が怖い。
本来の巧は、こんなぶっきらぼうな優しくない男だ。
「あのね、俺も志野も幼稚園から一緒だよ? 嫌いとか我慢とかで一緒に入れる年数じゃないよ。そんなのお馬鹿さんでも分かると思うけど」
そして、すっと視線を扉の方へ向けてきた。まさか、扉のこっちに私がいると気付いてた?
「評価がつかない課題でも一番を取ろうと努力する。勝敗なんて成績に残らないのに体育祭で先頭に立つ。成績に残らないのに、学際で朝から夜まで働く。それを、未来の自分の為のスキルアップだって、努力を惜しまないんだ」
歩いてきた巧が、反応の遅れた私を出し抜くかのようにドアを開けた。
「そんな女性と物心着く前から一緒に居て、他が魅力的に映るとでも思う?」
「え、英田秘書!?」
真っ青になった森元さんとは反対に、私は手に持っていた鞄で慌てて顔を隠した。
反応さえ遅れなかったらドアを閉めてやってたのに。
「俺は彼女が好きだよ。なかなか結婚に踏み出せなかったのは、志野から求めて欲しいと、逃げ腰だった俺のせい」
「ば、馬鹿じゃないの」



