「一番いい席を用意したので、さっさと行きましょう。夜も遅くなっては長旅での疲れも癒せませんしね」

「し、志野ちゃーん」

小声で副社長が慌てていたけれど、無視してさっさと接待をスタートさせた。
こうなるならば、立花さんも呼ぶべきだった。

私がキースと仲良かったのでこの件を任せると言われたのも、嘘だ。契約は全く滞りなくスムーズに進んでいるし、向こうが渋る様子もない。
これは、仕事と私情を挟もうとした、副社長と社長の公私混同に大きな活を入れてやらないといけない。

むかむかと腹の虫が収まらず、キースたちに酒を進めつつ自分も一杯だけ飲んでしまった。

茶碗蒸しやお吸い物など、素朴なモノで御驚いてくれるキースの部下に救われつつも、何杯飲ませてもキースも副社長も表情が変わらない。

「すいません。電話が入りましたので失礼します」

有無も言わさない笑顔で社長に告げ、巧に電話した。
庭が散歩できるので、池の隅で壁に背を凭れつつ、小さく息を吐く。

多分運転するなら竜崎だと思うと、小さな望みをかけて。

『はい』

「何してるの。急いで。さっさと来て」

『……』