「……知らない」
「今日は百花の方が早かったのに、起こしに行かなかったの?」
「うん。なんか、これ以上、暁を知るのが怖いっていうか」
グラウンドから聞こえる部活生の声。
その奥に、寂れて使われていないサッカーゴールがあるのを、私はいつも見ないふりしていた。
見なければ、いい。
いつも通り生活できる。
なのに暁が私の不変を壊してくる。
変わらないはずはないって。
自分はこんなに変わったんだってアピールしてくるのだから。
「知ったら認めないといけないもんね」
優菜は、ピカピカに磨かれたトランペットを色んな角度から見る。
「私は暁くんが来てくれて、百花の手を掴んでくれてホッとしてるよ」
プゥーっと小さく音を鳴らすと、納得いかなかったのか首を傾げた。
「でも全く百花も自覚がないわけじゃないんだって分かって、安心したよ。だからさ」
太腿の上にタオルを置いて、優菜はトントンとトランペットを押しつけながら、私の日常を壊さないように囁くように言う。
「百花の為に来てくれた暁くんから逃げちゃ駄目だよ」



