時計を持つ手がガタガタ震えている。
時計を壊しても何も変わらなかったら本当に暁は帰ってこない。
でも信じるしかない。

振り上げた時計を、床に叩きつけた。


「ちょっと! 何の音? 百花―っ」

一階からお母さんの声がする。
けれど私は、砕け散った時計が花弁のように散っていく視界の中、ゆっくりゆっくり花の絨毯にあおむけに倒れていく。


宙を舞う手が、ベットの上でページをひらいていたノートを掴んでそのまま花びらの絨毯の中、吸い込まれていった。
ぐちゃぐちゃの汚い字で、颯太は『俺たちはずっと一緒だろ』と書いた。

すぐ横でぽろぽろと泣く私の頭をそのノートでポンと叩く。

暁(あきら)は、そのノートを奪うと、自分の鞄に入れた。

「じゃあ、頂戴。これ、俺が貰うから」

「は、ずりぃ。大体お前が転校なんかするから、百花が泣いているんだぞ!」

「俺の方が泣きたいのに百花が泣くから泣けないんだ。二人の傍から離れるのは俺の方だろ?」

「百花、お前も泣いてねえで何か言えよ! この皮肉野郎を黙らせろ」

「百花、俺が居なくなったら颯太を頼むな。テストとかテストとか、あとテストとか」

「……う」

私の言葉に二人は注目する。
何を言うのか、待っていてくれた二人が私の顔を覗きこんだ。

「うわぁぁぁん! 離れたくないよぅぅぅぅ!」

大声で子どもの様に泣く私に、二人が顔を見合わせてため息を吐くのが分かった。

「や、話がふりだしに戻るから止めて」
「最後ぐらい笑顔で送り出せよ!」
「誰が『最期』だ」
「はあ!?」

二人がまた喧嘩になったので、とうとう庭にいたお兄ちゃんが玄関から大声を出す。

「いいからさっさと始めるぞ、糞ガキども!」