私は過去にしがみつき、現実に振り戻される。
戻されてたまるかと、過去にぎゅっとしがみつく。

ぐちゃぐちゃの汚い字で、颯太は『俺たちはずっと一緒だろ』と書いた。

すぐ横でぽろぽろと泣く私の頭をそのノートでポンと叩く。

暁(あきら)は、そのノートを奪うと、自分の鞄に入れた。

「じゃあ、頂戴。これ、俺が貰うから」

「は、ずりぃ。大体お前が転校なんかするから、百花が泣いているんだぞ!」

「俺の方が泣きたいのに百花が泣くから泣けないんだ。二人の傍から離れるのは俺の方だろ?」

「百花、お前も泣いてねえで何か言えよ! この皮肉野郎を黙らせろ」

「百花、俺が居なくなったら颯太を頼むな。テストとかテストとか、あとテストとか」

「……う」

私の言葉に二人は注目する。
何を言うのか、待っていてくれた二人が私の顔を覗きこんだ。

「うわぁぁぁん! 離れたくないよぅぅぅぅ!」

大声で子どもの様に泣く私に、二人が顔を見合わせてため息を吐くのが分かった。

「や、話がふりだしに戻るから止めて」
「最後ぐらい笑顔で送り出せよ!」
「誰が『最期』だ」
「はあ!?」

二人がまた喧嘩になったので、とうとう庭にいたお兄ちゃんが玄関から大声を出す。

「いいからさっさと始めるぞ、糞ガキども!」


私の思い出は、いつもそこに戻り、そしていつも何か大事なものが欠けていた。

心、感情、――彼の声。