逃げようとした私の手を、暁が強引にベットに縫い付けて離さない。
口は悪いけれど優しいと思っていたのに、暁の顔は強張っていて、そしてとても冷たかった。
「俺の声は、ちゃんとお前に届いているのか?」
弱弱しい声。
私を見る真っ直ぐな顔は、今にも泣きだしそうだった。
「お前が居たから手術も怖くなかった。お前が居たからうちの親も離婚しなかった。だから、俺はお前が、現実から逃げたままなのが嫌なんだ。俺の声、ちゃんと届いているか?」
もう一度言われて、私の涙がベッドへ落ちて行く。
「聞きたくない」
「百花!」
「聞きたくない!嘘じゃないよ! 颯太は居る! 否定しないで!」
足でがんがん暁を蹴っても、暁は私から退こうとしなかった。
昨日私を追いかけて体調を崩した暁に、お詫びを言うはずがどうしてこうなったんだろう。
どうして、――私にそんなことを伝えてくるのだろう。止めて。聞きたくない。
耳に手を当て目を閉じて、私は花の絨毯の上で、ふわふわと夢を見ていたのに。
「何してるの!」
病室のドアが開くと同時に、おばさんが悲鳴に近い大声を上げた。
一瞬怯んだ暁から私は抜けだすと、そのまま廊下へ飛び出した。
「百花っ」
廊下を走り、階段を駆け下り、がむしゃらにただただ丘から下っていく。
急な坂に足の速度が速くなり、バランスを保てなくなった私は倒れるように駆け下りていく。
逃げて逃げて、逃げて。



