「……でも、今、暁を傷つけているんでしょう?」
「気持ちをぶつけ合うんだから、そりゃあ弱い部分は痛むだろ。それでその部分を強くできるなら俺はぶつかるのは大切だと思っている」
暁の眼は真剣だった。
パイプ椅子の上に座っていた私は、ただただ暁を見上げるだけだった。
「百花」
腕を捉えられる。
けれど、私は立ち上がれなかった。
「あいつは、もう居ないんだよ。どこにも。――死んだんだ」
「そんな嘘、聞きたくない」
「お前は知ってるだろ!」
怒鳴られてびっくりして固まった私を暁は立ち上がらせて、一瞬躊躇しつつも抱きしめてきた。
「……死んだんだよ。小学校最後のサッカーの試合に行く途中に死んだんだ」
呪文のように暁が言う。それは私を殺してしまう恐ろしい言葉だった。
『すまない。どうしても朝一で顔を出さないといけない大事な研究なんだ』
おじさんは毎日同じ時間に、研究体の様子を見に行かなければいけなかった。一日でも湿度や温度管理を行うと数年の実験が台無しになってしまう。
そんな説明をされたと思う。
颯太は私の家でご飯を食べ終わり明日の準備をしているところだった。
「お母さんも見に行くけど、朝は用事があるの」



