世界は愛で満ちている

ぐう、と間の抜けた音に苦笑する。

病気だからと言ってお腹が空かないわけではないらしい。


「…とりあえず、何か食べよう」


パーカーの前を止めてポケットに片手を突っ込みながら部屋を物色する。

ふと視線を上げると、カウンターにサンドイッチと置き手紙がしてあるのに気がついた。

手に取ろうとして、はじめて、手が震えてることに気がついた。



あ、私、怖いのか。



すごく冷静で、客観的だった。


手紙の内容はあまり頭に入ってこなかった。

サンドイッチと一緒になんとかのみこむと、どうやらここには“Heracles(ヘラクレス)”なるものがあるらしく、定期的に私たちの「数」を減らしにくる、ということだった。



「…もの?」



もの、とはどういう意味だろうか。

人ではないのだろうか?ロボット?アンドロイド?猛禽類?


「…っ!」


サンドイッチに入っていた何かで舌を切った。

唇よりも数倍痛い刺激が脳を駆け巡った。


口から取り出したそれは、針のようなものだった。


「…?」


でろり、と唾液が垂れた。
近くにあったコップの中に急いでそれを突っ込む。

そのとき、気がついた。


「鍵…なのかな?」


先端が鍵のように様々な形に凹凸している。

皿の下にちょうどそれが入りそうな穴を見つける。



何の気なしに、入れた。





かちゃり。