ーどうやら、それから6日経っているらしい。


わたしとしては起きるつもりは無かったから実際日付なんてどうでもいいのだが。

ガラッと部屋の扉が開いた。


「…っ!蒼波(あおば)!」


「え、湊(みなと)…?」


点滴のスタンドをガラガラと引きずって私の双子の弟はわたしのベッドの隣に腰掛けた。


お気に入りの渋めの紫のカーディガンはいつもとは違って袖の長さに折られていた。
中に着ている青いTシャツに汗が滲んでいた。


「…もしかして」


「…うん」


「…そっか」


「…ごめんね」


「なんで?」


「…」


少し、今の質問は意地が悪かったかもしれない。


だって、湊なら今の質問は、湊が病気にかかったことじゃないと理解しているはずだから。


「…姉ちゃんは?」


「僕の隣のベッドで寝てる」


「…ふーん…パパは?」


「…僕の向かい側。母さんはその隣」


「へえ…」



じゃあ、私だけ病室が違うのか。


というか、私だけ個室なのか。



「…やっぱり、か」


「…っ、」


湊が下唇を噛んだ。


「違うの?」


「…」


「…そっか」


変な質問してごめんね、と少し皮肉を込めて微笑む。


悔しそうで悲しそうな顔をする湊の首筋を撫でた。


襟ぐりの広いシャツから出た、綺麗な鎖骨をなぞる。


彼にぞわっ、と鳥肌がたつ。


「ふふ…」



「蒼波」


「なに?」


「あのさ、ひとつだけ聞いてもいい?」


「いーよー?」



僕たちのこと、恨んでる?



体温計がかちゃり、と落ちた。


先ほどのアメピンの看護師が拾いにくる。


どうやらとっくに検温なんて終わっていたようだ。


ひやり、と背中を大きな舌に舐められたような感覚がした。


だって、明らかに湊のいう“僕たち”には姉さんとパパは含まれてないから。


「…やっぱ、そうだよね」


「…そんなことないよ」


え?と湊が首をこてん、と倒す。


まあまあ整った顔でそんなことをしたら幼くみえるのだが、まあこの際それはどうでもいい。



「湊のことは…恨んでないから」


「…っ!」


「…ほ、ら、そろそろ病室に帰りなよ」


「…でも」


「看護師さん、湊、送っていって貰えますか」


こくり、と頷いたアメピンに湊を託す。


最後まで寂しそうな顔をしていた、のかもしれない。