ー6日前。


思い出しただけでもぞくぞくする。


ああ、この歓喜は人生の中で最高と言えるだろう。



「じゃあ」


「気をつけろよ。車をちゃんと見て」


いつもと同じ会話が繰り広げられる。


パパの言葉は変わることはない。


電子書籍を扱っている母さんとイライラしたように貧乏揺すりをするお姉ちゃんが視界に入った。


わたしは遅刻しそうだった塾まで、自分とチャリを連れて行ってもらった。

たいして勉強したいわけでもないのだけれど、家族と離れられるならそれで十分だった。


わかった、とも、ろくな返事もしないで外に出た。


隣には自転車。

車の中にはわたしの大嫌いな奴らがそろってる。


赤信号。


横切る横断歩道のライトが点滅し出した。


ふと、自分がこのまま死んだら家族はどのくらい怒るのだろうか、と考えた。



ほんの、出来心だった。



舞台は完璧だった。


自転車でちょっと、車道にとどまっておくだけだった。



キキーーーーーッ




案の定、トラックが道を曲がってきたところだった。


バックミラー越しに見たパパの顔が忘れられない。
わたしは微笑んだ。




バンッ




思っていたよりもあまり痛くない衝撃になんだ、と肩をすくめた。


ああ、お腹から血が出てる。

脚も骨折かな。

ま、それなりに綺麗に死ねたからいいか。


バタバタと車から人がおりてくる。


トラックの運転手はわたしが悪いと喚いているようだ。



そうそう、その調子。


救急車がなるべく遅くくるようにね。



じわじわと広がる痛みと、失血多量による貧血で気分が悪くなってきた。



もう、そろそろいいかな。



わたしは意識を手放した。