「やぁだー!ゆいちゃんがー!」
「やめてっ!たくちゃん!」
ドアを開けた瞬間、聞こえるわめき声。
廊下までも広がっている、おもちゃやら本やら新聞紙やら。
おそるおそるリビングに入ると、テーブルにはペットボトルやお菓子の袋、ソファーには脱ぎっぱなしのパジャマ。つけっぱなしのテレビ。
麻尋は、リモコンを力任せに押しテレビを消すと、リビングの真ん中で騒いでいるふたりのもとへ行った。
「あっ、麻尋ねーたん!」
先に寄ってきたのは、3才の拓実(タクミ)。
ふさっとしたカーブの髪の毛に、くりっとした目。
口にチョコレートらしきものをつけながら、腕には赤い線がついていた。瞳には涙がたまっていて。
「拓実。なにしたの?また優衣のこと怒らせたんでしょ。」
麻尋は、口のチョコレートをティッシュで拭きながら、拓実の目線に合わせながら聞く。
「だってぇ... ひっく... 。優衣ちゃんお菓子くれないんだもん。ちょうだいって言ったらガブってしてきたぁ...。」
腕の赤いのは、かんだ後か... 。
麻尋は優衣のことを軽くにらんだ。
すると、プイッとそっぽを向く。
「はぁ...。優衣、いいかげんにしなよ。拓実痛いって。かんじゃだめでしょ... 。それと、お菓子もちゃんとあげてよ?」
ぐずぐずと泣く拓実を持ち上げながら、優衣のもとへ行った。