「欲しいならお前にやるよ。あとでみんなには内緒でこっそり持ってきてやるから」

「ありがとう」


なんだかひいきしてもらってるみたいで申し訳無かったけど、同期の特権のような気がして甘えることにした。

家に帰ってコーヒーと一緒にゆっくり食べよう、とニマニマしていたら。
山口は何かを思いついたように「なるほどね〜」とアゴをさすりながら私を見下ろした。


「あの人と一緒に食べるってわけか。いいな、ラブラブで〜」

「違うよ!ひとりで食べるし」

「なんで?付き合ってないわけ?」


なんで?と言われても。
付き合いたいけど、そりゃあ出来ることなら付き合いたいけど。

付き合うにしてもタイミングとか色々あるし、今は仕事が忙しそうでゆっくり話もできないわけで。


私が言い詰まっているからか、彼は心底呆れたようにこれ見よがしにため息をついた。


「仕方ないな。俺がキューピットやってやるか」

「キュ、キューピット!?」


恋のキューピットとか、中学生くらいの時にしか聞かない言葉なんですけど!


「まあ、ちょっと来いよ」と腕を引っ張られ、私は山口に連れられて彼の働く製造部まで強制的に移動させられた。

私が席を外したことなど、事務員のみんなはお菓子に夢中でおそらく誰も気に留めていないだろう。


山口は鼻歌を歌いながら製造部の中へ入っていき、私は彼が出てくるのを廊下で静かに待っていた。


しばらくして、彼はさっき持ってきた紙袋の4分の1ほどの大きさの袋をぶら下げて出てきた。
きっとその袋の中には、私が好きだと言ったビターチョコのお菓子が入ってるのだ。


「これな。みんなには内緒」

「うわー、ありがとう山口」


中に入っている量は、見ただけでも6つ7つくらいしかない。
単にあまり量産しなかったのか、サンプルとしてどこかへ持っていた余りなのか。
これだけ少ない在庫なのがもったいない。

お金を出してでも食べたいくらい、私には好みの味なんだけど。


「賞味期限、12月24日だから」

「へ?」

「それまでに、このお菓子をダシに使って沖田さんを誘え」


さ、さ、誘う!?

アワアワと口をあんぐり開けていると、山口はニカッと大きな笑顔を向けてきた。


「なかなか俺もいい男だろ?振ったの後悔しない?」

「…………ふふ、山口いいやつ。本当に、ありがとう」


答えになってないよ、と彼は拗ねてたけど。

残りわずかなお菓子を分けてくれたお礼は、心を込めて伝えたつもりだ。