「ついでに言っとくと、今も。結衣は相変わらず春ちゃんみたいのが好きらしいけど、古瀬とか尚人とか。でも、俺は結衣が好きだよ」
いつの間にかシゲは私をまっすぐにじっと見ていた。
「……私は本当のこと言ったでしょ、こないだ」
「泣いたじゃん」
「シゲは好きでもないのにキスしたんだって思ったの。それに、初めてだったから」
言いながらもう、顔が赤くなってる自分がわかる。これほんと恥ずかしいんだけど。彼氏がずっといるふりしてたくせに、ファーストキスだったとか。
「好きでもないのにするわけないだろ。泣かれたこっちの身にもなれよ」
言ってることはきついけど声は優しくてドキッとした瞬間、シゲのスマホが鳴った。
メールをチェックしてる。仕事? 今大事な話の最中じゃない?
「へえ。さっきの春ちゃんの話、やっと意味がわかった」
スマホをしまいながら、ニヤリと笑ってシゲがこっちを向いた。え? 春ちゃんだったの?
「中学卒業前に、俺の絵黒板に描いてたんだ?」
「三人の、だよ」
「俺と手をつないでるってさ。春ちゃんとじゃなくて」
「うるさいな、覚えてない」
じろりとにらまれる。あ、ダメか。嘘だよね。
「うっかり描いちゃったの。いなくなってから、気づいたの」
ぶつぶつと可愛げのない告白なのに、「ごめんな」とまた優しく言われて頭を撫でられる。
その手が後ろに下りてきたと思ったら、ふわっと顔が近づいた。離れてから「これが初めてってことにして」と勝手なことを言う。
「ダメ。そんなの嘘だから」
そう答えたら「あんなに泣かせたのとかなかったことにしたい、マジで」とシゲは空を仰いだ。
しないよ。私の本当の告白なんだから。
「嘘ばっかりついたらダメだよ」
なかなか本音も話してくれないし。
呆れたように「よく言えるな」とつぶやいて、「お互い禁止な、これからは」とシゲが笑った。


