ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?

もう開いていた自転車屋さんでパンク直しを頼んで、代金も彼が立て替えてくれた。近くの会社に返しに行けばいいというので場所を覚えるためについていった。


うちの会社よりは大きいその建物の前で、男の人が困っている様子だった。


「平井さん、何やってんですか。鍵は?」


隣を歩いていた彼が、近寄りながらその人に声を掛ける。


「尚人、朝からどこ行ってたんだよ。あれ、どうした?」

「これ、しっかり者の結衣ちゃん。ちょっと金貸してて」


私を指で差しながら適当に紹介された。尚人くんは「また忘れたんですか」と言いながら、もう鍵を出してドアを開けている。


「金? 大丈夫?シゲのやつ寝てんのかな、出ないんだよ。結衣ちゃんもよかったらどうぞ。寄って行って」


営業的なさわやかスマイルで微笑みかけられる。

この街の人っぽくはない、垢抜けた感じの人。三十間近の後継息子ってところかな、この会社の。


「いえ、私は帰らないとなので。また後でお金返しに来ます」

「今日また来るの?」と尚人くんに確認される。

「うん、何時ぐらいまでいるかな」

「俺今ここに住んでるから何時でも。涼しくなってからでいいよ」


住み込みかぁ。そうは見えないけど、苦労人か。さっきのシゲっていう人もそうなんだろう。

同じ名前だ。中学以来、誰とも音信不通になったあのバカ、東城成彰と。



「尚人、朝からいきなりナンパか」

「違いますよ、人助け」


と言うやりとりが聞こえた。朝こんなところでナンパをする人もいないですよ。世の中の人は本当に恋愛ネタが好きだと思う。そんなに簡単に恋ができたらいいんだけどね。