すると彼は歩き出し、少し行ったところで振り返る。ついて来いってこと?
スマホをもう見ることもなくどんどん歩いていく後ろ姿に、必死でついていった。
癖の強そうな髪。背は高いけど猫背気味。あまりこの工業の町に似合う感じがしない。ジャージ着てるのにどこかオシャレ、みたいな?
なんて観察している間に引き離されそうになる。
何度目かの角を曲がった時、見覚えのある看板の前に、山田精機の人らしいおばさんが立っていた。
「結衣ちゃん?」
「おはようございます。遅くなってすみません」
「あーもう、助かったわー。すぐ確認するからね」
中の人を大声で呼んで、おばさんは受け取った荷物を渡した。その場で待つと「確認しましたー!大丈夫です!」とすぐに元気な男の人の声が聞こえた。
おばさんと目を合わせてにっこりした。お仕事完了だ。
「ありがとうね、結衣ちゃん。寄って行って欲しいところだけど、彼氏待たせてるしね」
「いえ、そんなんじゃ」
「かっこいいじゃない、彼。結衣ちゃんしっかりしてるし、男前捕まえてるし、いいなぁ重野さんとこは。うちの娘にもちょっと分けて欲しいわよ〜」
完全に勘違いされてる。
「大丈夫大丈夫、言わないから。社長怖そうだもんね」
おばさんは意味ありげに目配せして、勝手に納得している。
まぁ、いいけど。必死で否定するほどのことでもないか。もう新しい彼氏ができたみたいだよとか、おばさんネットワーク経由で地元まで話がいくかもしれないけど。
今さら何を言われてもいいし、どうでもいいや。


