「ちょっと!」
さすがに恥ずかしいし抗議するけど、全然気にしないで逆に襟のところも引っ張られて反対の背中から肩を覗かれた。
「やっぱりこっちもだろ、なんだよこれ」
「なんでもない。ちょっとぶつけただけ」
「こんな色になるほど?」
「たまたま打ち所が悪かったの!」
シゲが黙った。私だって話す気ない。シゲならともかく、真央ちゃんの前でなんて言いたくない。
「あと食器洗いお願いしてもいいかな?」
「いいけど」
真央ちゃんはシゲをちらっと見て、引き受けていいのか困ったような頼りない声を出す。
「ありがとう」
それだけ言って、シゲのほうは見ないで表に戻った。
シゲはきっと家庭内トラブルって気づいてて、ちゃんと言わないことを怒ってる。嘘つくなって言われてるのに、またやっちゃった。
後でシゲだけにこっそり話そう。別にこんなの隠してるわけじゃないし。
しばらく経ってから、洗い物終わってるかなと思ってダイニングへの扉を開けると、シゲと真央ちゃんが顔を寄せてテーブルで何か話している後ろ姿が見えた。
幸い気づかれていないので、そっと閉める。
忙しくもなかったので、早めに切り上げて帰ることにした。


