「シゲとは違うよね。私こないだも言ったかな、それ。純はシゲみたいになりたいんだよ、きっと」
「親の期待がないほうが楽ってことか」
「楽なんて誰も思ってないよ。純は居たくない場所で頑張ってるけど、シゲは逆に自分で居場所を作れるでしょ、いつも。そういうのすごいと思う」
シゲは何も言わずに歩いているから、この際言っちゃおうと思って話し続ける。
「初めてこの会社に来たとき、美術室みたいだと思ったの。春ちゃんの美術室。場所だけじゃなくて人も集まってきてて、シゲがすごく楽しそうに働いてて。
正直言って悔しかった。私はあの美術室が特別な場所だと思ってたけど、シゲはどこでも誰とでもああいうことをやれるんだって。自分で作れちゃうんだって」
最初は悔しかったんだけどね、ほんと。
「だけど私もバイトに誘ってくれて、嬉しかった。一緒にまた水族館に行けて、嬉しかった」
横を向いたら、少し赤くなって照れてるようなシゲと目が合って笑っちゃった。そういう顔、初めて見た。かわいい。
「俺は」
シゲが言いかけるけど、もう全部言っちゃおうと思った。言えるところまで。
「純は見てないけどわかるんだと思う、シゲのそういうのが。二人でご飯食べててもね、シゲのことばっかり私に聞くんだよ。憧れてるんだと思う、すごく。たぶん中学の時から」
もしかして憧れなんて言葉では表せないような苦しい気持ちかもしれないけど、私が純の代わりに伝えるとしたらこれが精一杯。


