作業場で図案を見ていたら、珍しく朝からシゲにこそこそと話しかけられた。


「真央が、ってこないだ来てた子だけど、料理手伝いたいって言ってて」

「そうなの? 綾さんにも言った?」


自然な感じに明るく答えられたと思う。今人手は足りてるけど、隣の子なら夏休み以外も手伝えるかもしれないし、私より適任だよね。でも、しばらくは一緒に作業して話したりするか。ちょっと気が重いかな。


「言ってある。でもたぶん役に立たなそうだから、じゃまだったら言って。隣のおばちゃんに聞いたんだけど、やったことあんまりなさそうで」

「私もそうだけど慣れたから平気じゃない?」


シゲはバツの悪そうな顔をしてるけど、別に綾さんのお手伝いだからそんなに料理上手である必要ない。留学してたなら自炊してたかもしれないし、包丁ぐらい使えるでしょ。そんなに心配なの?


「料理だけじゃなくて、いろいろうるさいかもしれないけど、悪い」


俺の彼女が迷惑かけます、みたいな態度だと思う。気のせいじゃないよね。



「シゲ、いちゃついてないでさっさと仕上げるぞ」とそこで平井さんが作業場に顔を出して呼んだから、「はい」とシゲが素直に返事をする。


平井さんや綾さんの冷やかしは、私もだけどシゲもほぼ完全に受け流している。


「悪い、よろしく」とシゲが出て行きながら私の肩をぽんっと叩いた。


こないだ病院の壁でぶつけた背中当たりにちょうど当たって、軽い力のはずなのに「うっ」と一瞬声が出るほど痛かった。シゲはこういうこと普段しないから気を抜いてた。


「え? 痛かった?」とシゲがびっくりして振り返るのを、「ごめん、なんでもない。行って」と追い出す。


あざになってるんだよね、ここ。鏡で見たら青黒くて変な感じになってた。


あの時病院にいたのに、おじさんとお父さんのごたごたで診てもらい忘れて。今さら病院なんて行ったら親たちも気にするだろうし、そのうち治るだろうと思うんだけど。跡にならないといいな。