ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?


その夜、割と遅くまで自分の机で大学のレポート課題をやっていたらメッセージが入った。


【今なにしてる? 電話して平気?】

【朝の話だったら、今度でいいよ】


すぐに返したのに、結局電話がかかってきた。


『悪い。隣の家に行ってて今戻ってきた。電話じゃ話しづらいようなことだった?』

「そうじゃないけど」


純との話をするつもりには、もうなれなかった。いい説明も思いつかないし、シゲにとって知らなきゃいけないことじゃないし。


あれからずっと一緒にいたのかな、二人だけだったのかなと関係ないことが気になってた。


『春ちゃんのこと?』


シゲがそう聞いてきた。


『俺が静岡帰るのいつだってうるさいから、なんかあるのかと思ったんだけど、違った?』

「……春ちゃんね、病気だって誰かに聞いた?」


春ちゃんのことが気になってるのは本当。諦めてたけど、シゲにちょっと相談してもいいのかな。


『介護とか実はうつ病とか言われてるのは聞いたけど。まぁ他にも噂はあるみたいだけど信じてない。身体壊したって自分でも言ってたよな。何の病気?』


そう。急に退職したせいで変な噂も流れた。リストカットしたとか、男子生徒にセクハラしたとか、不治の病だとか、いろいろ。


どうでもいいことの中に少しの本当が隠れているようで、怖かった。もちろんそんなんじゃないけど、本当のことは言わずにいた。


「言わないでって言われてるんだけどね」

『俺が謝るから、言っていいよ』

「ガンだったの、去年。精巣ガンで手術と抗がん剤やって、たぶん一応治ったの」

『……ほんとにそんな重病なんだ』


急な話にシゲも驚いてる。そうだよね、まだ二十代なのにガンなんて、噂しててもみんな本当は想像してない。


「言いたくないって言ってて。私にも本当は知られたくなかったはずなんだけど」

『うん、それで?』


それで、なんて言えばいいんだろう。心配なの。


「今また病院にいるみたいなの。こないだの電話も多分入院先からで、でも、そういうの春ちゃん何にも言わないから聞けなくて」


回りくどい言い方になってるなって自分でも思った。はっきり聞きたいけど怖いし、それにきっと春ちゃんは聞かれたくはないはず。どうしたいのか自分でもよくわからない。