その夜、嫌な夢を見た。
放課後の美術室。私は顧問だった春ちゃんと何か話してる。いつも通り「帰ろうぜ」と声をかけてくる男子。一度断ってから、思い直す。
何か言わなくちゃと思うのに、のどから声が出なくてぐずぐずしているうちに、シゲは手を挙げると後ろを向いて美術室を出て行ってしまう。
立ち上がって追いかけろ!
眼が覚めた瞬間、自分の部屋の明るく白い天井を見上げて思う。
でも記憶の中でも夢の中でも、いつも結局黙って見送るだけなんだ。
あーあ。久しぶりだな、この夢。落ち込んでる時に限って見る。認めたくないけど、後悔してるんだと思う。忘れた頃にこうやって意識に上がってくるくらいには。
あれは中三だから、もう四年か。生きてるのかな、あいつ。きっと楽しく暮らしてるんだよね。
私だって別に楽しくやってるのに、なんで夢に見るんだろう。ほんとムカつく。
まあいいや。ベッドの上に起き上がって、ぶるぶると首を振ってから伸びてみる。忘れよう。
昨日メールを送った春ちゃんから返信が来ているかチェックしようとした時、スマホが先になり始めた。
お母さんだ。
夏休みの朝から、なんだろう。


