笑顔を持たない少女と涙を持たない少年



“依美”という呼び方をしているのは父親と母親だけで、これからも“依美”と呼ぶのはこの2人だけだと思っていた。


さすがに名前をくれた親に“名前が嫌いだ”なんてそんな失礼な言葉を言えるはずはなかったけど。


私が私の名前を嫌いだと知っている人には、できるだけ“みぃ”と呼んで欲しいと思う。


私の言葉を最後まで聞き終えた奏は、そのまま私に笑いかける。


「嫌だ、俺はエミって呼びたい」


軽やかなのに、重みのあるように感じるその言葉。


“依美”、その呼ばれ方は嫌なはずなのに。


――この感情は、何だろう。


奏のその笑顔と言葉に、私の心は一度戸惑った。