笑顔を持たない少女と涙を持たない少年



表情は見えないけど、何も言わない奏は、きっと。


困っている。


確かに、動揺している。


私は同じように、ドアの方を見ることしかできない。


穏やかだった私たちの空間に、私の心に、荒波が立つ予感がして――


「母さん」


リビングルームに現れた、綺麗な女性。


奏が“母さん”と呼んだその女性は、数歩歩いたところで立ち止まり、奏を見てから――


私を睨むようにして見つめてきた。


目が合って、唾を飲み込んだ。