急に、訳の分からない感情に、襲われた。 何かを言おうとして、口を開いた。 でも、何を言えばいいか、分からなかった。 何を言いたいのか、分からなかった。 何かを言いたいのに、何も言えない。 その理由さえも分からない。 ただ、奏の名前を呼ぶことしかできなくて。 「依美、ありがとな」 奏は、笑顔で言う。 言われると嬉しいはずの“ありがとう”が、少し苦しかった。 その後、奏と一緒に食べたマドレーヌは、甘くて、苦くて、奏の笑顔の味がした。