笑顔を持たない少女と涙を持たない少年



それは、奏が耳元で呟いているからなのかもしれない。


近くで聞くから、こんなに違うのかもしれない。


「そ…う…」


脳と身体がゆっくりこの状況を理解し始めたとき、さっきのように心臓が音を立てていくのが分かった。


そしてその音はどんどん大きくなり、どんどん加速する。


私の一生のうち、こんな出来事に直面するなんて、考えられなかった。


私は――奏に、抱きしめられていた。


ドアに手を伸ばした私の背中を、奏は左手で抱きしめていて、奏自身の右手で私の右手を、軽く触れている。