それは、奏が耳元で呟いているからなのかもしれない。 近くで聞くから、こんなに違うのかもしれない。 「そ…う…」 脳と身体がゆっくりこの状況を理解し始めたとき、さっきのように心臓が音を立てていくのが分かった。 そしてその音はどんどん大きくなり、どんどん加速する。 私の一生のうち、こんな出来事に直面するなんて、考えられなかった。 私は――奏に、抱きしめられていた。 ドアに手を伸ばした私の背中を、奏は左手で抱きしめていて、奏自身の右手で私の右手を、軽く触れている。