「あのさ」
すぐ近くで聞こえる蒼の声。
胸の鼓動が早くなってるの、自分でもわかる。
「暗闇で、…こんな体制。
お前女なんだから、
…腕振り払わないとダメじゃん。」
そう言った蒼は、一瞬だけ
私の腕を握っている手の方を強く握って、
私の身体を離した。
蒼の方に向き直るけど…
やっぱり、…蒼がどんな顔してるのか、
見えなくて。
「…鈍臭いうえに無防備とか、
危なっかしすぎ。」
ボソっと呟いたその言葉は、
静まり返ったこの教室では、私の耳にも届いた
蒼は私の横を通りすぎて、
視聴覚室の扉に手をかける。
「俺、…お前のこと諦めないから。」
私に背を向けたままそれだけ言って、
蒼は視聴覚室を後にした。
…私は、その場にペタンと座り込んだ。
脈が早い。
顔、熱い。
抱きしめられたときの感覚も、力強さも、
まだ残ってる。
私は…ずるいな。
〝お前のこと諦めないから〟
あの言葉を……嬉しいと、思っちゃうなんて。
