俺がそう言った瞬間、小百合は足を止めた。



「蒼…それってさ、〝恋〟じゃない?」




笑顔で、だけどどこか切ないような顔。




「…は?」

何を言い出すのかと思えば…


恋…?



「………恋って…、…何だ?」





「蒼、本当鈍感だよね。こーゆうことには。」



クスっと笑った小百合は

俺の顔を見つめてきた。




「ちひろのこと、

もっと知りたいって思ったんでしょ…?

蒼が他人に興味持ったのは、

ちひろが初めてなんだよ。…知ってた?」



…何がいいたいんだ…?




「それってさ、つまり…

蒼にとってちひろが特別ってことだよ。」



「……。」



小百合は俺から顔を背け、

真っ直ぐに前を見た。



「蒼は、…ちひろのことが好きなんだよ。」


明るい声色。

…単なる気のせい、なのかもしれない。


夕日の逆光のせいか、

このとき、なぜか

小百合の背中が震えているように見えた。


小百合が、…どんな表情をしているのか、


わからない。








「じゃあ、私!寄るとこあるから!!」

振り返った小百合は



「またね、蒼!!」




笑顔で俺に手を振って、



颯爽と夕日の向こうへ駆けていった。